カシウス第一王子は、本日もお怒りの様子だ。
 ソファに腰掛けてはいるが、まだ傷が痛むようで頻繁に位置を変えている。

「まさか、王太子である私が、あのような辱めを受けることになろうとは……ルビディル、貴様のせいだぞ!」
「申し訳ありませぬ……よもやあのようなことになろうとは思ってもいなかったのです」

 といいつつも、私ルビディルは、内心でこの王子に一泡吹かせてやれたことを喜んでいた。

 あの時王太子に渡したマントには、ハーケンブルグ公爵が乗っていた馬の尾に塗られた薬と同じものを付けておいたのだ。まんまとそれに引き寄せられた狼犬達は、この王子に牙をむいて尻にかぶりつき……彼はしばらくの間熱を出して寝込んでいた。

 その時の仕事の捗り様といったら……できるなら、ずっとあのまま寝込んでおいて欲しかった……! と思ったくらいだ。

 それを見たあのフィースバークのサンドラ侯爵令嬢も、表面上は取り繕っていたが、口元が震えていたのを覚えている。傷に障るといけないのでと言って部屋には入らないが、実際は尻を痛めたあの情けない姿を見ると吹き出してしまうからだったのだろう。