銀糸を束ねてもこうは光るまいという艶の保たれた長い髪。
 半月のように薄く品良く形作られた唇。
 そして、なによりもその――深い森の奥で静かにたゆたう湖のような……蒼玉(サファイア)の色をした硬質で他を寄せ付けぬ強さを秘めた瞳。

 神様が手ずから作られたような顔立ちの青年は、窓際で一人の友人とかたらいながらグラスを傾けている。だが、その瞳はどこか寂しさを隠しているように思えて……。

「――エル、あなたも来ていたのね……当たり前か。王太子様の婚約相手だものねぇ」

 ぼうっとしていたリュミエールは、背中側からかけられたその声にはっとした。
 
「リーシア姉様……」

 リュミエールを見下ろしていたのは、彼女と二つ違いの下の姉であるリーシア・フィースバーク。見事な赤の巻き毛をかき上げると、彼女は笑みを歪ませる。

「ダメよぉ……主役の相方がこんな所にいては、盛り上がらないじゃないの。さぁ、こっちに来なさい。みんなに紹介してあげるわ!」