公爵家では一匹の猫が飼われている。

 名前はサムという。もともと城で雇われていたお針子が世話していた猫から生まれ、あと四匹の兄弟がいたそうだが……それらは他の使用人などに貰われ、彼だけが城に残り今も暮らしている。

 ある日、リュミエールが部屋でパメラやケイティとくつろいでいると、カリカリと扉を掻く音をさせ、彼がやって来た。

「あら、小公爵……どうなされましたの?」
「「ぶふっ……小公爵!?」」

 扉を開けて猫を抱き上げたパメラの言葉に二人は紅茶を吹き出すところであった。

 少し太り気味の雄猫は、首に黒いリボンを付け、確かに公爵と似た色合いの銀の毛並みと青い瞳をしている。そしてなにより……その人を睨みつけるような半眼の瞳が確かに公爵に似ているかも知れないと、リュミエールは思ってしまった。

「あ、お二人とも……くれぐれも本物の公爵の前ではサムとお呼びするようにして下さいね」
「ええ、ええ……」