それを皮切りに狼たちが王太子を追い回し、彼は盛大に悲鳴を上げながら逃げ惑う。

「――王太子殿! なにをしている!」
「カシウス様……い、いかん! 貴様ら、あっちへいけ!」
「うへぇぇぇぇん……なぜ私が、こんな目にぃ……」

 狩り勝負どころでは無くなり、たまたま近くにいたレクシオールとルビディルが狼を追い払うまでに、カシウスは尻を噛まれて大きな傷を負い、熱を出して数日寝込むことになる。

 ……そしてそれ以後王太子は犬に近寄る事もできなくなってしまったのだという。

 この不名誉な事件は王太子の対面を(おもんばか)った国王の命令で固く口留めされて闇に葬られ、当事者達だけが知る所となった……。