後ろに繋いでおいた馬の方へ振り向き、急いで遅れを取り戻すべく走って戻ろうとしたカシウス。しかし、彼は夢中で気付いていなかったのだ……後ろの状況に。

「「「グルルゥ……」」」
「え……」

 そこにいたのは、無残に首筋を噛まれて引き倒された馬……そして数頭の狼の群れの瞳が、一斉にカシウスの方へ向いた。

 彼は半笑いでそれを見て矢をつがえる。

「ハ、ハハッ。ちょ……ちょうど良いではないか? こ、こ奴らを仕留めれば、勝負はッ、私の勝ちッ」

 かちかちと歯が鳴り、震えた指から矢がぽろっと地面に落ちた。

 ――パサッ。

「「「グァァウゥ!!」」」
「ひぃぇぁぁっ! 来るなッ! おっ、お前ら誰に牙を向けているか分かっているのか! 私はこのリーベルト王国の王太子なる、第一王子……た、助け、誰か助けろぉぉぉぉおおお! うわぁぁぁぁあああ!」