そしてもう一人、後ろから馬を並べる人物がいた。

「見事な乗馬術ですな……全く追いつけぬとは。お見それしましたぞ」
「なんということはありませんよ、幼いころからあちこちを走り回っていただけです」

 ――彼がリュミエールの父親である、フィースバーグ領の侯爵オルゲナフその人である。

 リュミエールとは似ても似つかない鋭くいやらしい目つきで、目の下には(くま)が濃い。

 よくこんな親や家族の元であのような純粋な娘が育ったものだ……ここはあのお調子者の世話係に感謝しておくところか……フフ。
 
「どうかしましたかな……?」
「いいえ、狩りなど久しぶりで……腕が鳴ると思いまして」

 そんな風につい口の端を上げたことで俺を不思議そうに見たオルゲナフ氏には、適当な言葉で返しておく。

 しかしこの男、リュミエールとの婚約時に一度会っただけの俺に怪しげな投資話を持ち掛けて来るなど、到底信用できる人物ではない。