本日俺は、この度縁籍関係となる予定のフィースバーク侯爵家から、親睦(しんぼく)を深める為という事で呼ばれた、狩りの席に参じていた。

 俺は弓は得手では無いのだが……悪戯に断わってリュミエールを返せなどと難癖をつけられても敵わない。そんなことになれば、ろくでもない家に返されるあの娘が憐れであるしな……。

 侯爵家近郊の山林はハーケンブルグ周辺とは違い、そこまで雪は積もっていない。

 鹿や猪、狼などが多く生息しているらしく、中々よい狩場のようだ……俺にはそこまで厳しい寒さでは無いように思えるが、隣で馬に乗る王太子は体を震わせている。

「……くちゅん。ええい、北風が体に(こた)えるわ……」
「よろしければ、この外套をお使い下され」
「おお、お主はよく気が利くな……」

 そう言って分厚い毛皮のマントを差し出したのは確か、リーベルト王国の宰相であるルビディルと言う男だ。まだ年の頃は五十半ばと言うことだが、すっかり頭頂部が寂しくなり、額の皺も折り重なっている……長年こんな王太子を支えてさぞ苦労しているのだろう。