――周囲のざわめきがすっと低くなり、ささやきへと変わる。

 たった今、リュミエールは王太子生誕記念のパーティー会場である、王城の広間に参じたところだ。

 リーベルト王国……大陸の北部に位置するこの中規模国家は近隣諸国との大きな争いもここ数十年はなく、平和の最中にある。

 そして今日はその王太子――第一王子カシウスの生誕記念を祝う為……各地から多くの有力な諸侯(しょこう)が集まっていた。

「では御嬢様、行ってらっしゃいませ。私は隣室に待機しておりますので」
「ええ……」

 詰めかけた大勢の紳士淑女が立ち並び、豪華絢爛(ごうかけんらん)そのものといった装いを見せる広間にリュミエールが進み出ると……やはりというか、向けられるのは好意的でない視線である。

「おやおや、《(から)っぽ聖女(せいじょ)》のお出ましか……」
「《亡霊令嬢(ぼうれいれいじょう)》をあまり見ると、(たた)られてしまいますわよ、ホホ」

 遠巻きから放たれる揶揄(やゆ)の声に耳を貸さず、彼女はゆっくりと人混みを避けるように、今回の主役である王太子殿下の元へと向かおうとした。