(これは……夢の中なの?)

 なんとなく少女はそのことを認識できた。
 なぜなら昨晩、彼女の体は屋敷の古くさい寝台にきちんと横たえたのを覚えているから。

 柔らかい風が()でて通る見渡す限りの草原の元には、巨大な銀色の鱗を持つ生き物が寝そべっている。

 少女は徐々に先細るその体の前方へ、目を向け歩いていった。

(竜、というものなのかしら……)

 実際には見たことなど無くてもそうだと分かるくらい、絵本などで見たのとそっくりなその姿。

 やがて見え出すその生き物の頭部では、深海のように濃い蒼玉(サファイア)色の瞳が寂しげに(くも)っている。

 彼だか、彼女かは分からない……それは、少女を一飲みにしてしまえそうなくらい巨大な竜。

 だというのに少しも怖ろしく感じられないのは、きっとこの国では竜は(あが)められるべき存在であることと、その表情からありありと後悔の感情が伝わって来たからなのだろう。