ムショうの


 そういえばわたしとうのちゃんだって、離婚のことについては一言も話していない。今日二人で出かけたときも、まつわる話題は、ぜんぜん。

「…上月さんから、家に電話があったわよ。荷物のこと」

 ため息混じりに、お母さんが言った。

 突然落とされた「上月さん」という単語に、おしりがモゾモゾする。
 うのちゃんと一緒のソファが、すごく、居心地の悪いものになる。

「うのさん、元気ですかって、聞かれたわ」
「……そう」
「はぁ。…あのねぇ、お母さんなんてお父さんに、死ね、とかしょっちゅう思ってるけど三十年一緒にいるわよ」
「…ふふ、死ねってひどいなぁ」

 お味噌汁の匂いが、濃厚になる。フツフツ、沸騰をあらわす音のなかに、子どもがいなくて正解だったわ、とお母さんのぼやきが混じる。

 子ども、と聞いて、浮かんだのは、ご近所で生まれたばかりの子犬たち。

 白くて、小さくて、タマゴみたいな、守られるべき存在。

 視線の場所をテレビにうつして、頬づえをつく。

 なぜか一気に、お味噌汁の気分じゃなくなった。テレビに流れている、特大のデミグラスソースオムライスを、胃に流し込んでしまいたくなった。

 お母さん、子犬はかわいいよ。

 かわいいし、お父さんはいないけど、さらにお母さんとはなされようともしてるけど、全然、大丈夫みたいだよ。

 クゥン、という鳴き声を思い出して、振り返ってみたら、なんだかそれは、とても切ないもののような気がした。