○料理教室の誰も見えない場所
外は暗くなっていて、雨が降っている。
二人の男女の影がある。
深谷「……俺と、結婚前提に付き合ってください!」
唯奈「……え」
唯奈は驚き、戸惑う。深谷はキスを迫ろうとするが、唯奈は拒否する。
唯奈「ごめんなさい!」
唯奈は深谷を押して教室から外へと雨の中、出て行った。
***
場面変わる。
○教室、放課後
「さようなら」
ホームルームが終わり、唯奈は時計を見て焦る。
クラスメイトからも時間を心配される。
唯奈は教室を猛ダッシュで出るとバス停まで走る。
《私、三条唯奈は家政科のある高校の二年生。》
唯奈「乗りまーす!」
バスに間に合って乗り込む唯奈。いつも座る後ろの席に腰を下ろす。
学校を出て二時間。家に到着して、カバンだけを置いて隣の建物に入る。
看板には【さんじょうクッキング教室】と書かれており、中には書類整理をしている中年の男性がいる。
○さんじょうクッキング教室
唯奈・父「唯奈、おかえり。母さんが早く帰ってきてーって言ってたぞ」
唯奈「わかった、またアレかな」
唯奈は父と話してから奥にある【調理A室】に向かう。
唯奈「お母さん、ただいま!」
唯奈・母「あぁ! おかえり、待ってたのよー」
唯奈母は、唯奈にスマホを渡す。
《私の両親は、料理教室の経営をしていて私もたまにお手伝いをしている。》
唯奈は、スマホを受け取りすでに出来ている料理【筑前煮】を2,3枚を写真に収める。
唯奈「撮れた……お母さんー!」
唯奈は、撮れた写真を母に見せるとどれがいいか選んでもらう。
唯奈・母「うーん、これかな。時間あったら、投稿もしておいて」
唯奈は、母に言われた通りSNS(Instagram)の料理教室公式アカウントを開きタイトルに【今日の料理】と打ち写真を投稿した。
唯奈「……よし! 完璧!」
唯奈・母「ありがとうね、助かったわ。そういえば、唯奈のおかげでフォロワーさんとか体験コースを予約してくれる方が増えたのよ」
唯奈「そうなの!? 役に立ててうれしい」
唯奈・母「とっても役に立ってるわ。ありがとう」
唯奈・父「あぁ、本当に……」
《ここ、『さんじょうクッキング教室』は、お祖父ちゃんが経営していた料理教室だ。だけどお祖父ちゃんが亡くなり、調理師をしていたお父さんの孝一が教室長及び経営をしている。そして、お母さんの茜は元々栄養士の仕事をしていたんだけど私が生まれてからはここの講師をしていて夫婦で経営している》
《そんな両親の影響で料理が大好きな私は、高校で料理の勉強がしたいとわがままを言ってあの高校へと入ったのだ。》
唯奈・母「唯奈、調理の課題ならB室でならやってもいいわよ」
唯奈「本当!? じゃあ、課題のプリントもってくる!」
唯奈は、母から許可が出たためプリントを取りに自宅へと急いだ。
○夕方、料理教室
唯奈は、料理教室のカウンターで両親の代わりに留守番をしている。
ー回想ー
唯奈・母『ごめんね、行ってくるわね。何かあったら連絡ちょうだいね』
唯奈・父『もしかしたら、十八時に入会希望の人来るかもだから書類確認をよろしくな。電話すると伝えて欲しい』
唯奈『大丈夫だから! いってらっしゃい!』
ー回想終わりー
唯奈は、両親が心配そうにしていたのを思い出しため息をつく。スマホの時計を見ると、もう十八時を過ぎている。
唯奈は、誰かが来る気配もないので部屋をうろうろしたりカーテンから外を眺める。
唯奈「(来ないな……今日、本当に来るの?)」
心の中で呟く唯奈。
うーん、と唸っていると教室の扉が開いた。
深谷「……遅くなってしまって、すみません!」
息を切らし、急いで来たのがわかるくらいハァハァという吐息が聞こえる。
唯奈はそちらを見て今まで疑っていた心を誤魔化すように営業スマイルを見せる。
唯奈「大丈夫ですよ(めちゃくちゃ待ったんだけどね!)書類と本人確認ができるものをお預かりしてもよろしいですか?」
深谷「はいっ、すみません」
深谷は茶色の封筒から入会希望の書類と免許証を一式唯奈に渡す。
免許証をコピー機に掛ける。
唯奈「免許証、ありがとうございました。では、こちらの本人のお名前と電話番号と住所をもう一度確認をお願いします」
深谷は書類を確認し大丈夫だと言って書類を渡した。
書類確認をする横顔がどこかで見たことある顔だなと唯奈は感じる。
深谷「大丈夫です」
唯奈「ありがとうございます。では、後日、レッスン日をお電話させていただきますね」
唯奈は、教室のパンフレットや講習の日程の入った封筒を渡して男性を見送った。
教室に戻り、書類を見ると名前の欄に【深谷 萊希】と漢字で書かれていてその下の職業欄には【教師】と記入されている。
唯奈「え、なんで先生がここに!?」
《見たことがあるに決まってる。だって、だって……》
《記入されている名前は、私の通っている高校の先生だったのだからーー》