ひっ!

声にならない声が漏れる。

目の前の彼が思い切り私を睨んでいる。

背筋が凍ってしまうほど、鋭い目で私を見ている。

思わず謝りたくなってしまうほどの威圧感。



「なに?」



神楽 恭介くんが口を開く。

その声は低くぶっきらぼうで、すごく機嫌が悪いのだと思った。


機嫌が悪い中、話しかけちゃってごめんなさいっ!

私は、ちゃんとお礼が言いたかっただけで!

でも、この空気間の中お礼なんて言えないっ!


そう思った私は、彼の手首を掴んで半ば強引に教室を連れ出した。



「おいっ⁉」



私の勢いに圧倒されているのか、彼は抵抗することもなく走る私についてきてくれた。

後ろから『萌音⁉』って私の名前を呼ぶ最上くんの声が聞こえたけど、今はスルー。


ごめん、最上くん。

今は、この人にお礼をしなきゃいけないんだ……っ!

私は、彼の手首を掴んだまま廊下を走った。

石廊下を渡って中庭へ向かう。

中庭なら、お互い落ち着いてちゃんと話せるはず……っ。