その2
ケイコ



祥子と私は、多美の話をひと通り聞いて一旦、病室を出た

「これは…、計画的犯行だな。多美を南玉のリーダーと承知して…。クソッ、落とし前は絶対つけてやる!」

祥子は憤りを隠さなかった

「だけど、向こうはやくざまがいの手段で来てるよ。安易な報復に走ったら、泥沼の全面戦争ってことになると思う。祥子、ここは慎重にさ…」

「ああ、そうだな。さすが、こういう時のおけいはしっかりしてるよ。だが、実際どう対処するか…」

「まずは、南玉のみんなには、冷静を保って、はやった行動を起こさないように徹底させないとね。それは祥子が主だった者に真摯に説けば、それで南玉のみんなにも伝わると思う」

「ああ、今日中にも幹部連中には話をするよ」

「うん。それと、今回の勃発を受けた反排赤の各協力勢力とはさ、早急に共通方針を固めて、足並みをそろえないとね。早急にさ」

「そうだな。早速各グループと会談するか…。その場合、一堂に会したほうがいいかな?」

「うーん、それじゃ、相手にも何かとわかりやすくなっちゃうかな。それに、去年勃発した”再編劇の経緯”もあることだし、各人、確執は残ってるから…。今ここで、いきなり一堂にってのは、無理があるでしょ。ここは各派に個別折衝で行こうよ。私も手伝うし、分担でやろう!」

「よし…!なら、大体はここで分担、決めとくか…」

私は”部外者”だが、祥子を陰から全面的に支える決意を持った


...



「フフ…、おけい、お前の戦略通りでいこう。生活かかってるお前の手を煩わせて済まんが、よろしく頼むわ」

私は「こっちこそ」と言って、10センチ近く背が高い、祥子の肩をポンとたたいた

私たちの段取りは、去年の再編成時の対抗軸をそのまま、分担分けとしたんだ

きわめてオーソドックスではあるが、祥子が南玉連合のトップに立ったことで、両派への接着効果が高まったと思うから、意外とスムーズに協力が取り付けると直感したんだ

まず、旧南玉連合の相川先輩、湯本先輩らと紅組には、私が直談判し、墨東会OBの南部さんへの橋渡しもお願いする手はずでね

一方、再編時の麻衣の協力勢力であった、紅組離脱グループと岩本真樹子の勢力、それに墨東会正規勢力には、北田久美にその折衝役を当てたらどうかと提案したわ

祥子は、ちょっとあっけにとらてれたみたいだったけど…


...


「なるほど、久美か…。適任かもな。じゃあ、この後、多美の報告に際してその辺は、みんなに話しておくよ。あと当面、多美の穴はさえってところかな?」

「妥当だと思う。ただ、こういう情勢に至ったからには、あくまで祥子は南玉連合全体のトップとして、どっしり構えることが反排赤勢力の求心力を維持できることに直結すると思うんだ」

祥子は腕組みしながら、小刻みに頷いてる

「…祥子はさ、私と麻衣を統括した前総長荒子さんのような立場で、総指揮ってことでさ…。一時的な態勢だろうけど、各校勢力のサブをさえ、走りのサブを静美に充てたらどうかと思う」

「ふう…、お前は今さらながらだが、どうしてこういう時、そうポンポンと考えが浮かぶんだ。バランス感覚もしっかり持ってるし…。まあ、頼もしいよ」

私はくすっと笑った

そして、祥子は少し表情を固くして言った

「それでさ、麻衣のことなんだけど…」

うん、麻衣についてはしっかり定めておかないとね…