Cherry Blossoms〜難解なカルテ〜

「俺、藁科さんの家族に電話してくる！」

「ヨハン、お願いね！」

ヨハンが電話をするために走り、その背中に一花が叫ぶように言う。オーバードーズは命に関わる行為だ。胃管を手にする桜士の手が一瞬震えた。

「……この子、私の弟と同い年です」

一花は拳を強く握り締めていた。自分の家族と同じ年頃の人がこのような形で搬送されるのは、あまりにも辛いことだろう。

「必ず助けましょう！」

桜士は安心させるよう、一花に微笑む。一花は強く頷き、詩織の手をそっと握った。

胃管から、胃に残っていた溶け始めている薬がいくつも取り出されていく。薬は絶えることなく胃から出て行き、「どれだけたくさん飲んだんだ」と庄司が呟いた。

「ダメだ。家族の誰にも繋がらなかった」

電話をしに向かったヨハンが、どこか焦ったような表情で戻ってくる。一花が「えっ？繋がらなかったの？」と聞き返した。

今日は土曜日だ。普通の会社員ならば休みのはずだ。そして、ヨハンが恋人に確認したところ、詩織には高校生の兄がいるそうなのだが、家の電話に誰も出なかったそうだ。