イオンモールの事件があった翌日、桜士は不機嫌な表情のまま榎本総合病院の自動ドアを通り、更衣室へと向かっていた。心の中は悔しさと怒りでいっぱいである。

(クソッ!せっかく犯罪組織Cerberusの尻尾を掴んだと思ったのに!)

あの場所でイエティを逃してしまった自分のことも、あの二人が始末される前に逮捕できなかった公安にも、腹が立ってどうしようもない。だが、ここは病院だ。誰にでも優しい本田凌(ほんだりょう)にならなくてはならない。

(深呼吸、深呼吸……)

足を止め、ゆっくりと息を吸って吐く。それだけで少し怒りが薄れたような気がする。本田凌がいつも浮かべている優しい笑みを桜士がイメージし、顔に出そうとしていた刹那、声をかけられた。

「本田先生、おはようございます」

優しく、鈴を転がしたような心地の良い声だ。その声の主を桜士は嫌というほど知っている。声を聞いただけで、桜士の胸は高鳴っていくのだ。

「おはようございます、四月一日先生」