「すみませーん、レジいいですか」

「あ、はい!行きます!」

伊織先輩がお客さんのもとへ駆けていく。

穏やかな雰囲気はあの頃のまま。

何も変わってないように見える。

「伊織くんのお友達?」

「え、わ、えっと…っ」

友達…、ではないような。
だからと言ってどんな関係かと聞かれたらそれも…

「…そうです」

ややこしくなる前にそう肯定した。
花屋の店長さんにそれを言っただけで特に問題ないと思うし。

「よかったー、伊織くんお友達いたんだ!あ、こんな言い方はよくないか」

ここにあるどの花よりも明るく話す店長さんはピンクのエプロンがよく似合っていた。

「でも心配してたの」

「心配?」

「いつも1人で寂しそうにしてたから」

店長さんがいくつか花を取り見繕っていく。
話しながらも瞳はひとつひとつの花を捉えていて、テキパキと手の中に収められていった。

「初めてここに来た時ね、今にも崖から飛び降りるんじゃないかってぐらい精気失ってて」

すごい比喩の仕方する人だな…っ

そのわりに顔は明るく笑ってて、それは今の伊織先輩とは違うことがわかった。

「お花見てたら元気出るんじゃないかなって勧めてみたの」

“部屋に花があると明るくなるって言うけど、その通りだなって思って”

あれは店長さんに教えてもらったことだったんだ。

手際よくまとめられた花たちはあっという間に可愛らしい花束が作られていた。

「あなたみたいな子がいるなら安心だわ」

「いえ、私はそんな…」

「これどうぞ」

いつの間にかリボンまで付けられた可愛らしい花束、はいっと手渡された。

自分のために見繕ってくれているとは思わず、避けるように手を下ろした。

「あの私…っ、買えるようなお金はっ」

「これはプレゼントだから」

「え…」

「伊織くんのお友達への、ね」

少し首を傾けにこっと笑った。

花を好きな人に悪い人はいないって本当だろうなと思った。

「…ありがとうございます」

見ているだけで本当に明るい気持ちになれそうなカラフルな花束に私もつい微笑んだ。

可愛い。
 
ただどうしても1つ引っかかることがあって。

“いつも1人で寂しそうにしてたから”

それってどーゆう意味?

1人って…

ドッと心臓が鳴り始めた。

「あの、すみませんっ」

「何かしら?」

明確な理由が、見付かるかと思って。

「伊織先輩って…、彼女いますよね?」 

ドッドッ、と音を立てる。

心臓がうるさい。

もう遠回りしてられない。

ハッキリした言葉が聞きたい。

きゅっと花束を抱きしめる力が増した。

「いないんじゃないかしら」

やっと聞けた、1番聞きたかったこと。

「前はいたみたいだけど、今はいないと思うわよ」

かと思ったら今度は力が抜ける。

あんなにこわばってた体中からすーっと…


もう小西先輩と付き合ってないの?

付き合ってないんだよね?


え、じゃあ…


「あなた伊織くんのこと好きなのね」

「え!?」

ぽんっと私の肩に手を置いた。

「応援してるわ!」

店長さんの底抜けに明るい笑顔が心強くて。

レジにいる伊織先輩の方を見た。

窓から差す太陽の光りに照らされた凛とした横顔が切なげでとてもキレイだった。


今度こそ、その瞳に私を映してもらえますか?



伊織先輩。