「お母さん、行ってらっしゃい!」

「和凜もね。気を付けていくのよ?」

「ふふっ、はーい!」

 翌日の朝、お母さんとそんな会話を交わしてから学校へ向かう。

 私は通学路を歩きながら、昨日の事をぼんやりと思い出していた。

 昨日は、大変だったなぁ……。

 言うほどでもないんだと思うけど、昨日はいろんな事があった。

 男の人に絡まれてから、天狼さんが助けてくれて、それでその後何故か可愛いって……。

 ……って、何を考えてるんだろうっ。

 天狼さんにとって可愛いって言う言葉は、動物に向けるものと同じ。

 そうだと分かっている……はずなのに、どうしても恥ずかしさが拭いきれない。

 でもこう考えたって、もう天狼さんとは関わらない。

 何年生なのかも分からないし、昨日まで存在も知らなかった。

 あんなに優しくてかっこいい人、昨日も思ったけど二度と関わる事なんてない……と思う。

 ちゃんとしたお礼しに行ったほうが良いと思うけど、私にはそんな勇気ない。

 昨日の絡まれ事件もあるから、少しだけ怖い……なんて。