「ごめんね、逆に気を使わせちゃったよね……」

「どうして? そうなっちゃう?」

 神社からの帰り道。海斗の握っていた手の力が強くなる。

「俺はのぞみの気持ちが嬉しい。帰りに家に寄ってよ」

 行きと違って、自然に言葉がポロポロ零れてきた。

「年末だって、私が寂しくないようにって寒い中で一緒にいてくれて、それであんなことになっちゃったし……。いつも私のこと見ていてくれているのに、どうやってお礼を言えればいいんだろうって……」

「のぞみ……」

「私ね、今日の神さまへのお願いで、ちょっと欲張りしちゃったから、おみくじも『調子に乗ってるんじゃない』ってことだと思うんだ」

「何をおまけにしたんだ?」

「ずっと……、海斗と一緒にいられますようにって……。本当なら『受験合格しますように』だけじゃなきゃね」

 海斗はそれを聞いて目を丸くする。

「それでバチが当たったなら俺も同じ。理由も同じじゃんか。それなら、今年も変わらずやっていこうぜ?」

「うん」

 私だけじゃなかったんだ……。だったら、これからも頑張れる……。

「ねぇ海斗、ちょっといい?」

 手を引いて立ち止まる私たち。

 これからお家にお呼ばれするなら、その前にしておきたいことがあったんだ……。

「いつも……、ありがと……。私、経験ないから、今日は……こっちで許して?」

 海斗の頬に私、初めて唇を触れさせた。

「のぞみ……」

 だから、今日はわざとリップグロスを塗らなかった。跡が残っちゃったら……ね。

「初めてだよな? のぞみの……」

「うん。遅くなったけど……、これが今の私の精一杯。お願い……、置いていかないで……」

「置いてく? のぞみを?」

「うん、海斗は強いもん。いつも私はそれに甘えていた……。きっといつか飽きられちゃう……。それが、怖かった……」

「のぞみ、本当に鈍いよな。俺って単純だからさ、全部のぞみ絡みだぜ? 昔のケガも、のぞみが取られないかって俺が勝手に勘違いしたんだし。のぞみは誰にも渡さないよ……。これでいいか?」

「うん」

 両手でそっと肩を持たれて、私も小さく頷いた。



「あ、帰ってきた」

 お家の前には両家の両親が出ていて話しながら私たちを待っていたみたい。

「やっぱりのぞみちゃん美人だわぁ。でも、着替えていらっしゃい。みんなでおせち食べましょう?」

 海斗のお母さんが言ってくれた。

 だからね、二人で考えたいたことをしたの。

 私が海斗のご両親に、海斗は私の両親に向かって……、

「「これからも宜しくお願いします」」

 って頭を下げた。

「ハッハッハッ。こりゃ正月からめでたい話だ。続きはゆっくり中で聞かせてもらおう」

 お父さんたちも大笑い、お母さんたちもホッとしていた顔で迎えてくれたんだ。




 みんなでお正月料理を食べて、1年間受験生を頑張るってみんなの前で誓って。

 今は、海斗の部屋で二人きり。

「のぞみ、今日頑張ってたな」

「でも、私ズルかったよね。本当ならほっぺじゃないほうが良かったでしょ? 弱虫だなぁ私……」

「突然着物着て、どこが弱虫だよ。それにあの場じゃ着崩れしちゃう。あれでよかったんだ」

「そう……?」

 今は普段着に戻っている私を海斗はさっきとは違ってギュッと抱きしめてくれた。

「じゃ、のぞみの唇、今度は俺がもらうよ? いいよな?」

「うん」

 海斗も初めてだって。お互いぎこちなかったけれど、今日は間違いなく新しいことが始まった1日。

 これまでも、そしてこれからも、ずっと一緒にいたいから……ね。