秋が過ぎて冬がやってくる。

 聖剣を復活させ、魔王戦に備えなければならない。ステラと相談し、アラン様とステラと私の三人で、聖剣が眠る洞窟へ向かうことになったのだが。待ち合わせ場所にやってきた面々を見て、私は眉を寄せた。

「ねぇステラ? 聞いていたメンバーと違うのだけれど?」
「ひゃー! リディア様こわーい! 悪役令嬢みたーい!」

 すかさずアラン様に甘えるステラ。おいコラ。アラン様もちょっと嬉しそうにデレデレするのやめてもらえません!? 私の怒りのオーラを察してか、キース様が小さくため息をついた。ちっ。

「おいリディ。凶悪犯みたいな顔になってるぞ」
「お兄様と大して変わらない造りですけれど?」

 兄妹で凶悪顔の睨み合いを展開していると、クリス様が「すまない」と間に入ってきた。

「リディが王都の外に出ると聞いて……どうしても心配だったんだ。勝手についてきてすまない」
「……」

 捨てられた子犬のような瞳でクリス様が訴えてきた。ずるい。イケメンの弱々しい姿を見せられれば、こっちはときめく仕様になってるのに! 悔しい。

「すごい……! 一国の王太子様を無視するなんて……! さすがリディア様!」
「こら。煽るなステラ」
「ごめんなさーい」

 ステラとアラン様はいちいちイチャつくのをやめてほしい。ステラのあからさまなアラン様ラブな態度に、お兄様もすっかり安心しているようだ。今日は普段通りである。キース様はギスギスした雰囲気に呆れているようで、私を冷たい目で見てくる。

 ステラがあんなにアラン様にベタベタくっついているのを見て、クリス様は辛くないのだろうか。きっと想いに気づいたばかりなのに。──だから呼ばなかったのに。

「リディ……」
「じゃあ出発しましょう」

 こうなればサクサクと進んでさっさと目的を達成するしかない。
 聖剣を復活させるべく、私たちは王都の外へ繰り出した。

 王都の城門を出てすぐの森を奥深く進むと、大きな洞窟がある。その洞窟内に神殿があり、そこに封印されている聖剣の封印を解くのが今回の目的だ。

 大した護衛もつけず、王太子が城門を通った為、騎士達が声もなく驚いていた。「国王陛下には告げてある。案ずるな」とクリス様が発すると、騎士達が敬礼する。

 最年少騎士団長であるアラン様や次期公爵で魔力量がとんでもないお兄様、腹黒知的策略家のキース様もいるから大丈夫だと判断されたのだろう。王太子様に何かあれば一大事だ。彼自身が強いとはいえ、彼には傷ひとつ付けぬよう守らなければならない。

 今日の私は戦闘仕様だ。この世界には女性のパンツスタイルはない。私は普段の鍛錬もズボンが良いとお父様に駄々をこねて、動きやすい服をオーダーメイドしていた。シャツにベスト、ズボンに長めのブーツ。腰にはもちろん剣。長い髪はポニーテールにしてまとめている。

(クリス様がいるならもう少し可愛らしくしてきたのに……って違う!)

 恋する乙女的思考に陥った自分を必死に叱咤する。今日はそういう日じゃない。そもそも最低シナリオの強制力で、彼は今ステラに夢中なのだ。もうクリス様のことは諦めなければ。

 自分の思考にぶんぶん首を振って心頭滅却しながら、森を進んでいく。魔物もじゃんじゃん現れたが、バンバン倒した。

「な、なんか今日のリディ、強い……」
「お兄様もガンガン倒してレベルを上げてください!」
「リディア様かっこいい!」

 ステラが私を褒めたことがきっかけか、良いところを見せようとしたアラン様や、負けじとクリス様がその後も魔物を薙ぎ倒してくれた。そして私はクリス様のムキになる姿に、心が痛むのだった。

 ストーリーの後半、レベルが高くても攻略が大変な場所だったはずだが、あっけなく洞窟に到着した。

「到着ですね! 洞窟!」
「ここに神殿があるのか?」
「そうですわ。そしてその神殿の中に、聖剣が眠っているのです」
「洞窟の中にも魔物はいるのだろうか」
「いますいます! うじゃうじゃいますよ〜」

 そう。この洞窟は所謂ダンジョンのようなもの。魔物の宝庫である。
 ゲームでは、しっかりとレベル上げをして挑まなければならない場所だった。だが、本来ヒロインと攻略対象者の二名で挑むべき洞窟に、六人でやってきているし、それぞれゲームの初期設定よりかなり強くなっている気がするので、余裕な気もする。

「では参りましょう!」

 ゲームのようにセーブもリセットボタンもない。一発勝負のダンジョンに、いざ行かん!


「暗いからこわーい」
「腕にでも捕まっとけ」
「アラン様優しいっ」

 こんのバカップルめ! シナリオ通り二人で洞窟に投げてやればよかっただろうか。イラァっとした気持ちを抑えて先を進む。飛び出してきたコウモリのような魔物をサクッと倒しながら、キース様が話しかけてきた。

「勇んで進むのは良いですが、危険です」
「わたくしは強いので大丈夫ですわ。お気遣い無用です」
「お怪我をさせればこちらが困るので。それで、貴女は何をそんなにお怒りなのですか?」

 他の皆に聞こえぬような小さな声で聞いてくる。

「クリス様から何も聞いていませんか?」
「ええ。我が主は落ち込むばかりで。食も細くなってきましたし、不眠も続いています。貴女と何かあったのですよね?」

 違う。きっと、叶わぬ恋に気づいたからだ。ステラへの想いを自覚したものの、ステラとアラン様はあの調子。きっとショックでご飯が食べられないし、眠れないのだわ。……でも私、同情なんてしませんからね。

「さぁ。知りません」
「! 明らかに貴女がらみでしょう?」
「違うと思いますわ」

 ツンとした態度で全否定を繰り返していると、キース様は諦めたのか、また大きくため息をついて魔物の殲滅に専念するようになった。お兄様が「早いとこ許してやってくれよ」と懇願してきたが、なんの事だかわからない。むしゃくしゃするので魔物を倒して暴れられるのはちょうどよかった。

「フレイム!!」

 ジュッと焦げる音がして、コウモリ魔物がボタリと落ちた。

 そうしてどんどん奥へ奥へと進むと、風を感じる道に出た。風が抜けるその先に、光が入る場所があり、そこには大きな扉があった。ステラがアラン様の手を取り前に出ると、二人でその扉を押す。するとゆっくりと扉が動いた。

「わぁ」
「これは……!」