孤児院の門は粉々に打ち破られ、バザーの為に並んでいた品物は地面に散らばっている。この大きなワイルドボアが踏みつけたのか、逃げ惑う人々によるものかはわからない。だが、ほとんど砂まみれになり、もう売り物にならないだろう。
つい数時間前の子ども達の笑顔を思い出すと、込み上げるものがある。私は恐怖を打ち捨てて、剣を握り直した。
子ども達はやはり孤児院の中に潜んでいるようだ。ワイルドボアが扉に衝突するたび、複数の小さな悲鳴が聞こえる。
魔物はその鉄の玄関扉に、何度も衝突している。その力は強く、突破されるのも時間の問題だ。
「ファイヤーボール!!!」
聖魔法を込めた最大火力の火魔法を魔物にぶつける。命中し、炎の勢いでワイルドボアを吹き飛ばすことが出来た。だが、聖魔法一発では効かないのか、大きなワイルドボアはのっそりと起き上がった。
「一発じゃ効かないなんて……!」
魔力量をアップする訓練を続けていたお陰で、まだ余力はある。とにかくアイツを孤児院や街から離さないと!
「フレイム!」
炎を打ちながら、魔物の注意を自分に向ける。すると、ワイルドボアは禍々しい雄叫びをあげ、瘴気を放ってきた! 咄嗟に避けたが、さっきまで私がいた場所にあった木が黒く焦げ落ちていた。
「も、燃えカスになるところだった……」
無事ターゲットは私になったようで、魔物はこちらを向いて鼻息を荒くし、右足を地面に擦り付けている。こちらにダッシュしてくるつもりのようだ。
(近づいてきたところで、もう一度聖魔法を放つ!)
「かかってきなさい!」
『ブギャー!!!!』
その時だ。小さな影が魔物の前に躍り出た。子どもだ!
「リディアおねえちゃん!!」
「危ないわ! まだ出てきちゃだめ!」
「だっておねえちゃんが!」
私を心配して飛び出してきたのだろう。さっきクッキーをくれたサニーだった。だが、魔物を目の前にして恐怖で座り込んでしまった。腰を抜かしたらしい。
まずい!サニーに駆け寄るより前に、あの魔物が走り出したら!!
『ブキャー!!!!』
ワイルドボアは、今まで以上の雄叫びをあげた。仲間を呼んでいるのだろう。お兄様は上手くやっただろうか。
今にも走り出しそうな魔物を目の前に、必死に頭を巡らした。睨み合っている私が、サニーに駆け寄れば、ワイルドボアが走り出してしまう気がする。だがそうすると間に合わない。
なんとしてもここは守らなければ。この子を無事に返さなくちゃ。どうしたら……!?
「リディア嬢!」
「クリストファー殿下!?」
殿下と護衛騎士が数人孤児院の敷地にやってきた。魔物がこちらを向いているというのに殿下が近寄ってくる。
「領民達は安全な方へ逃げるよう誘導してきた! さぁ君も逃げるんだ!」
「この子をお願いいたしますわ!」
「ええ!?」
護衛のハロルドが察知し、サニーを抱き上げ魔物から離れる。私は剣を構え魔物の方へ走る。魔物も私に一歩遅れて走り出したが、もう遅い。
「エクスプロージョン!!!」
聖魔法の塊を今度こそ魔物にぶつけ、その衝撃で光が爆発したかのようにあたりが閃光に包まれた。



