気を引き締め馬車で街に向かう。祭りで賑わう公爵領の街はとても華やかで、多くの出店が並び、花が飾られ、どこからか音楽が鳴っている。
「まずは孤児院に行く。リディアが人気で驚くぞ」
「それは楽しみだ」
「!」
早速ピンチだ。
私が孤児院で人気なのは、本気でかけっこや木登りをして子どもたちと遊ぶからだ。今日も「遊んで」とせがまれたらどうしましょう。
不安な目でさりげなくお兄様を見ると、「大丈夫」と言うかのように小さく頷いた。今はお兄様を信じるしかない。
孤児院に着くと、見覚えのある馬車だと気付いたのか、子どもたちが走り寄ってきた。
「ディーン様とリディア様だ!」
「リディアさま!」
「リディアおねえさま!」
「ディーンおにいさま!」
「みんな久しぶりね」
お母様の方針で、私たち兄弟は定期的に孤児院を訪れている。寄附をするだけでなく、きちんと運営されているかどうか、孤児院の子ども達の様子を見守る目的だ。
とは言っても私は子供達と全力で遊ぶばかりで、子ども達からすれば大きな遊び相手だろう。
子ども達はクリストファー殿下にも興味津々だった。
「リディア様、このお兄さんかっこいい!」
「王子様みたい!」
「まさか! リディアねえちゃんの恋人?」
「あ、あのね! ええっと……」
子ども達の勢いにドギマギしていると、クリストファー殿下が子どもの身長に合わせてかがんだ。
「私はクリス。リディア様の騎士だ。だが、リディア様の特別になりたいと思っている」
そう言うと、秘密だよ、と言いながら口元に人差し指を当てた。その姿のなんと尊いこと! 気絶しなかった私を褒めて欲しい。
子ども達はキョトンとしたり、ませている女の子達は「きゃあ!」と騒いだりしている。私も騒ぎたい。
しかし、さすがは子ども達。話題はどんどん変わっていく。
「リディア様、クッキーあるよ!」
「あのね! リディア様! 俺が焼いたんだぜ!」
「待って! 僕が作ったのも見て!」
「リディアおねえさま! 私たち刺繍を頑張ったのよ!」
私に群がる子どもたちは、今日のバザーで色々と手作りの品物を販売するようで、一生懸命それを伝えてくれた。
「みんな順番に聞くわ! わぁ! サニー! このクッキーびっくりするほど美味しい!」
考えてみれば今日は領地のお祭りだ。孤児院のバザーは子ども達も参加して、店番に忙しい。遊んでいる暇はないのだ。
(さすがお兄様! そこまで考えてくださっていたのね!)
私は子ども達に一つ一つ紹介された手作りのバザーの品物を、少しずつ買った。残りは街の人に買ってもらいたくて、買い占めたい気持ちをグッと我慢する。院長先生に売れ残ったら買い取りますとこっそりお伝えした。
「リディア嬢は、女神のようだな……」
子ども達と楽しく過ごす私を見て、クリストファー殿下がそう漏らしていたことに、私は全く気づかなかった。



