魔法のいらないシンデレラ【書籍化】

呼ばれてゆっくり振り向いた青木は、意外そうな顔をした。

「なんだ?どうしたんだ、早瀬」
「お前、ちょっと、これ!」

急いで駆け寄り、パンフレットを見せる。

「ああ、なかなかいいだろう?新入社員とアルバイトの女子コンビの作品だよ。いやー、うちの課も一気に華やいで、男子達も張り切っちゃって…」
「お前この写真、フォトコンテストの最優秀者に頼んだって言ってたよな?彼の知り合いのお客様をモデルにしてって」
「ああ、そうだよ。古谷さんに撮影依頼したら、あのコンテストの写真もパンフレットに使いたいって。で、その時のモデルさんとその付き添いの方に、もう一度撮影をお願いしたんだ。そう報告してあっただろ?」
「ちょ、ちょっと待て」

口ではそう言いつつ、実際には自分を落ち着かせようとしていた。

深呼吸してから、早瀬は口を開く。

「報告では、最優秀賞のカメラマンが、お知り合いをモデルにして撮影したってことだった。4月の1日だったか?」
「そうだよ。それがなんだ?」
「そのお知り合いが、コンテストの写真のモデルの方だとは聞いてないぞ!」
「そうだっけか?でもそれがなんだ?何か問題でも?」
「その方、オリオンツーリストの御曹司のフィアンセだ!隣に写る方は、はっきり認識出来ないがおそらく社長夫人!」

えっ…と、青木の顔から血の気が引く。

「ちょ、ちょっと待て。俺、コンテストの写真のモデルさんだってことしか知らなくて…。もしかして、瑠璃ちゃんをアルバイトに雇ってることもマズイんじゃ…」
「な、何?瑠璃ちゃんって誰だ?」
「だから、その…コンテストの写真のモデルさん。一応、総支配人には相談しようとしたぞ?その方をアルバイトに雇ってもいいかって。でもお前が、現場の俺がいいなら大丈夫だって…」

(な、なんと…)

早瀬はもはや絶句し、意識が遠のくのを感じた。