魔法のいらないシンデレラ【書籍化】

オフィス棟の2階。

毎朝、朝礼を行う会議室で、早瀬はいつものように各部署の部長と課長から報告を受けていた。

内容によって総支配人に伝えた方がいいと早瀬が判断した案件は、そのあとすぐ一生に伝えている。

今日は特に急ぎの案件はなさそうだった。

夜に、1日の報告としてまとめて伝えればいいだろう。

解散後、ふと企画広報課からの資料に目を留める。

まだ制作途中だが、一度総支配人に目を通して頂いてご意見をうかがいたいとのことで、パンフレットの試作が提出されていた。

表紙は、ホテルのエントランスの写真。

色合いはシックで、文字も敢えてダークトーン、フォントやバランスもいい。

ホテルの高級感だけでなく、センスのよさも感じられる。

(新入社員のデザインか。なかなかいい)

そう思いながら、次のページをめくる。

今度は明るく開放的なイメージだ。

吹き抜けのロビーやシャンデリア、繊細な壁の彫刻、そして庭に咲くきれいな花々と、思わずスタッフですら見落としてしまいそうな細部を、丁寧にクローズアップしている。

(へえ、うちのホテルじゃないみたいだな。こんな見え方もあるのか…ん?)

ふと早瀬は、桜並木の写真に目を留める。

大きくはないが、その写真に写っている母と娘のような二人の面影は、なんとなく見覚えがある。

(この横顔…もしや!)

慌てて部屋を飛び出し、廊下の先を歩くうしろ姿に呼びかける。

「課長!おい、青木!」