魔法のいらないシンデレラ【書籍化】

そのあとも2回ほど電話が鳴ったが、それ以降びたりと来なくなる。

「どうしたんでしょう。急に静かになりましたね」
「ああ、確かに」

首をひねる二人は知らない。

各部署に、今後何かあった時は、まずフロントに連絡を入れるようにという早瀬の指示があったこと、そして早瀬はずっとフロントに待機し、ひっきりなしにかかってくる電話の対応に追われていることを。

「コーヒーでも淹れますね」

瑠璃は立ち上がり、カウンターキッチンでコーヒーを淹れると、一生のデスクにどうぞと置く。

ありがとうと言う一生に微笑んだ瑠璃は、ふと、デスクの花瓶に目をやった。

「あの、少し席を外してもよろしいですか?」
「ああ、もちろん」

瑠璃は、すぐに戻りますと言って、バッグを手に部屋をあとにする。

一生は、静かになった部屋でコーヒーを飲みながら、急に幸せがこみ上げてくるのを感じた。

瑠璃が入って来たあとも、仕事に追われて実感がなかったが、今夜、瑠璃の姿を見られたことがとても嬉しかった。

白いニットと水色のスカート姿の瑠璃が、ふんわりと笑顔を浮かべて入って来た時は、一瞬夢の世界にいるのかと思った。

(ふふ、思いがけず俺にとっても良いクリスマス・イブになったな)

きっと、早瀬が瑠璃に頼んでくれたのだろう。

一生は心の中で、早瀬に礼を言った。