魔法のいらないシンデレラ【書籍化】

壁の時計が17時になったのを確認すると、早瀬は隣にいる瑠璃に声をかけた。

「定時になりましたので、上がってください。あとは私がやりますので。お疲れ様でした」
「え、でも…」

瑠璃がソファに目をやると、麗華もこちらを見ていた。

「なによ、帰るつもり？私、夕食もこれからなのよ？」
「ええ。そうですよね」

瑠璃がそう言うと、一生が立ち上がった。

「麗華さん。私は社員に、必要な業務以外は残業を認めていません。あとは早瀬がやりますから、彼女は」

そこまで言った時だった。

「なによ！私は必要じゃないっていうの？私の相手なんて、そこらの人にやらせればいいってこと？見くびらないでよ！私が残れって言ってんだから、残りなさいよっ！」

まるで叫ぶような声で言ってから、はあはあと肩で息をする。

瑠璃は麗華に近づくと、そばにひざまずき、はい、かしこまりましたと声をかけた。