やがて定時の17時になろうとしていた。

「早瀬さん」
「ん?どうしたの?」
「このファイル、どうやってもこっちのフォルダに入らなくて…」
「どれどれ…」

(近い!近いぞ、早瀬!)

一生は心の中で睨みを利かす。

今日はずっとこんな調子だった。

「拡張子の問題かな。これでやってみて?」
「あ、出来た!」
「ね?」
「はい。ありがとうございます!」

そうして二人は微笑み合う。

(近い!ああーもうだめだ!)

一生は、ガタガタと音を立てて立ち上がった。

「早瀬!」
「はい」
「お前、今日はもう上がれ!」
「…はい?もうですか?」
「もうってなんだ。定時だぞ」

早瀬は目をしばたかせる。

定時に帰ったことなんて、ただの一度もなかった。

「あの…お言葉ですが、このあとも色々とやることが…」
「そんなもんは、俺がやる!俺だってお前の代わりくらい出来るんだぞ?」
「は、はあ…」

瑠璃は、小声で早瀬に話しかける。

「今日はもう上がってください。私がいますから」
「そう?でもなあ…」
「なんだか一生さん、ご機嫌がよろしくないみたいですし…」
「確かに。あ、今もこっちを睨んでるよ」

するとまた一生の声が飛んできた。

「早瀬、いいから上がれ!」
「はい!かしこまりました!」

早瀬は瑠璃に、ごめんねとささやく。

いいえ、と瑠璃は笑顔で見送った。