魔法のいらないシンデレラ【書籍化】

心配そうな一生とは反対に、落ち着いた態度で和樹は言う。

「お前さ、瑠璃と瑠璃の家族を見くびったらいけないぜ。あいつはただのお嬢様じゃない。そんな枠におとなしく収まる気はないんだ。親が決めたレールには乗らず、楽な道に敢えて背を向けて、自分の足で歩こうとしてる」

和樹の言葉に一生は、サザンカの写真の瑠璃を思い出した。

あの凛とした佇まいは、強い意思を秘めている。

「瑠璃の家族だって、瑠璃のことを信じて応援している。まあ、今はまだ、俺との結婚を信じているかもしれないけど、いずれ瑠璃が話せば、納得するはずだ」

きっぱりと言い切り、ビールを美味しそうに飲んでいる和樹の顔を、一生はじっと見つめる。

「お?なんだよ、おい。イケメンに見つめられちゃってるよ、俺。やだー、一生くんたら!」

ふざける和樹だが、一生は真面目なままだ。

「お前、本当によく分かってるんだな。彼女のこと」
「まあな。子どもの頃からのつき合いだし」

(いや、違う。和樹はきっと今でも彼女のことを…)

一生は、少しうつむいてから、ビールを一気に飲み干した。