魔法のいらないシンデレラ【書籍化】

「え、これを俺に?瑠璃さんが?」
「はい。朝礼のあと、声をかけられまして。総支配人に渡して欲しいとのことでした」

なんだろう…と思いつつ、一生は紙袋をのぞき込む。

一番上に、封筒があった。

取り出して開けると、きれいなカードが入っている。

神崎 一生様

過日は大変お世話になり、本当にありがとうございました。
お礼が大変遅くなりまして、申し訳ございません。

京都を訪れた際、素晴らしい職人の方が作られたガラスの花瓶を見つけました。
繊細な模様と色合いが、総支配人室の神崎様のデスクにも合うような気がして、勝手ながら贈らせて頂きます。
受け取って頂けましたら幸いに存じます。

早乙女 瑠璃

美しい字で綴られたカードを読み終わったあとも、しばらくぽーっとしてしまう。

我に返って、ようやく紙袋から、丁寧に包まれた箱を取り出した。

シックな色合いの箱をそっと開けると、中には、美しい模様が描かれたダークネイビーの流線型の花瓶が入っていた。

ゆっくり手に取ると、ほどよい重みが伝わってくる。

目の高さに持ってくると、光を受けてきれいに輝いていた。

早速、デスクの端に置いてみる。

大きすぎず、ブラックのデスクにもよく馴染んでいる。

「早瀬、悪いがあとで」
「はい。フラワーショップに行って参ります」

早すぎる返事に、一生は、ふっと笑った。