魔法のいらないシンデレラ【書籍化】

数日後、いつものように朝礼を終えた早瀬は、オフィス棟の廊下を歩いていた。

「早瀬さん」

ふいに名前を呼ばれて振り向くと、瑠璃が立っている。

「はっ、こ、これは…」

思わず挙動不審になる。

(落ち着け…普段の通り、社員の一人として接するんだ)

タタッと小走りに近づいてきた瑠璃は、早瀬の前に立つと、きれいなお辞儀をする。

「お忙しいところ、お声かけしまして申し訳ありません」
「いえ、そんな、別に、まあ」

どのセリフが正解なのか分からず、とりあえず並べ立てる。

「恐れ入りますが、こちらを総支配人に渡して頂けないでしょうか?」

そう言って、両手を添えて紙袋を差し出す。

「こ、これをですね。はい、それは、大丈夫だ」
「ありがとうございます。どうぞよろしくお願い致します」

それでは失礼致します、ともう一度頭を下げてにっこり微笑んでから、瑠璃は企画広報課の部屋へと去っていった。