「嘘…ですか…?」
穏やかな中庭の雰囲気から切り離されたような緊迫した会話に、俺は息が詰まる思いだった。
「陽介さんは、どうして私が、陽介さんの帽子を拾った上に彼氏になって、なんてお願いしたと思います?」
「えっと…いつも同じような入院生活に嫌気が差して彼氏が欲しくなったから…とか?」
「だとしたら、帽子を落とした人は誰でも良かったってことですか?」
「そう思ってたんですけど、そうじゃないんですか?」
彼女はきょとんとする俺を見て、にこやかに笑った。
「陽介さん以外の誰かだったら、そもそも帽子を拾うことすらしないですよ」
「それって、俺じゃなきゃ駄目だったってことですか!?」
俺は予想外の展開に思考をめぐらせていた。
「そうです。陽介さんじゃなきゃ駄目だったんです」
「え…それってまさか…」
俺が騙されやすい性格なことバレてた…!? やっぱり結婚詐欺的なやつだった…!?
「私、病院で会う前からずっと、陽介さんのことが好きだったんです!」
「え、そういうことですか!?」
「え、逆に何だと思ったんですか!?」
「俺から騙されやすそうオーラが出てたから、詐欺に引っ掛けてお金取ってやろうみたいな…」
そう言うと彼女は口を大きく開けて笑った。
「私、そんな悪人じゃないですよ!! 陽介さんは、ずっと前から憧れの存在だったんです」
彼女は少し頬を赤らめた。