着物を見て回り、最後の奥に用意された着物の前で立ち止まる。 「これ…」 「…こちらは、大奥様が輿入れされた時にお持ちになったものです。 結局、必要な物はすべて大旦那様がご用意されていたので着る機会はありませんでしたが」 淡いピンク色と、紅色、そしてあちこちに桜が散っている。 「…これ、私が着てもいいのでしょうか」 「もちろんでございます。大奥様もお喜びになるかと」 「そうだよ。ここにあるものはすべて母さんが依里のために用意したんだ。 どれでも好きなものを着ればいい」