朝なけに

タイミングが良いのか、萌香がちょうど食堂へと入って来るのが見えた。
私も知っている同じ学部の子五人くらいで、わいわいと楽しそうに歩いている。


言うなら、今しかない。
この怒りで奮い立たせないと、言えない。
手を握り締めて萌香の方へと歩いて行くと、向こうもこちらに気付いて視線を合わせて来た。


「萌香、一体何でそんな事するの?」


「そんな事って?」


そう聞き返して来る萌香の顔には少し意地悪な笑みが浮かんでいて。
私が久保田君にちょっかいかけられて困った事を見越しているのだろう。
それは萌香の仕組んだ、私に対する意地悪。


「久保田君に私が気があるとか嘘吹き込んで!」


「え?だって、葵衣って男好きじゃん!
中さんだっけ?ああやってイケメンが現れたらすぐ目の色変えて。
どうせ相手にされるわけないのに。
だから、葵衣には久保田君みたいな普通の男がちょうどいいって思って」


萌香の言葉は、何から否定したらいいか分からないくらい酷いもので。
この子が本当に私の事を友達だなんて思ってないって、やっとハッキリと分かった。


「それって、私じゃなくて萌香の事じゃない」


「は?」


「私はイケメンなら誰でもいいわけじゃないし!
中さんだから好きになったわけだし!
それに、中さんに相手にされてないわけじゃないし。
付き合ってるから!」


自分でも、頭に血が上っているのが分かる。


「え?
…ふーん…。付き合ってるって…どうせ、中って人に葵衣は遊ばれてるだけなのに」


「中さんは遊びで女性と付き合うような人じゃないし!」


「あんなイケメンで、遊んでるに決まってんじゃん!」


「中さんの事悪く言わないで!」


そうやって、私達の口喧嘩がヒートアップしていると。


「…萌香、ちょっと声大きいし、辞めなよ」


萌香と一緒に居た子の一人が、そうボソリと萌香に言い。
萌香は、ふん、と食堂から出て行った。
残された子達は少し萌香を追いかけるか迷っていたが、そのままランチを取りに行った。


私は言いたい事を言えてスッキリとした気分で、テーブルに戻った。
もう二度と萌香とは友達になれないだろうと喪失感があり、なんだか少し胸が痛かった。