「閣下、閣下。昨夜ちょっと目撃されただけで、街はその話でもちきりなのです。閣下は、なにせ「救国の英雄」ですから」
「そうですよ、閣下。おれたちがここでウダウダ言っている間にも、街のお偉いさんたちが評議会で話を進めているかもしれませんよ」

 ウイリアム、それからトリスタンが訳知り顔で語っている。

「そ、そうなのか? まいったな」

 ウオーレンが鮮血と同じ色の髪をかきながら言った。だけど、ちっともまいったという感じではない。

 ぶっ飛ばしてやりたいわ。

 そんな優柔不断な、というよりかは大嘘つきの見栄っ張り野郎な彼を見ながら、拳を握りしめてしまった。

 即行動に移してもいい。つまり、彼をぶっ飛ばして全力で否定するのである。

 だけど、部下の手前がある。女のわたしがそんなことをすれば、彼に恥をかかせることになる。

 それに、ウイリアムとトリスタンが彼を担いでいたり話を盛りまくっているのでないかぎり、街中の人たちが彼とわたしは「運命の仲」だと暗示にかかっている。