「キャッ」

 なんて硬い体なの? というか、わざとぶつかってきたのね。

 上半身がぐらついたので足で踏ん張ろうとしたら、かれが両腕を差し伸べてきてわたしの腰にまわした。

「大丈夫か?」
「ちょっ、放してください。いやらしいですよ」

 月明かりの中、ウオーレンの銀仮面の下のブロンドの瞳がこちらを射るように見つめている。赤髪は、まるで血の色のようにあざやかに見える。

 二人の距離感にいたたまれなくなり、彼に噛みつくように言ってしまった。

 が、彼はかたまってしまったかのように反応しない。

「すまない」

 彼がささやくように言った。

「しばらくの間、このままでいてくれないか?」

 だまっていると、彼はまたささやいた。

 そして、こともあろうにわたしを抱き寄せた。

「ちょちょちょ、なにをするのです。こんなところで? いえ、場所とかそんなことはどうでもいいのです。とにかく、とにかく落ち着きましょう。だって、そうでしょう? こんなのって、よくありません」

 彼の分厚くかたい胸板に両手をあて、抱きしめられないよう全力でがんばった。