「閣下。それにしても可愛らしいお嬢さんですね。閣下の婚約者なのですか?」
「あんた、立ち入ったことを尋ねるんじゃないよ。閣下、申し訳ありませんね。お嬢さんは、まだ二十歳かそこらですよね?」

 店主の奥さんに尋ねられたから、笑ってごまかしておいた。

 それよりも、ウオーレンがなんと答えるか気になる。

「婚約者? い、いや、ま、まあ、そのようなものかな……」

 なんですって?

 どの面下げてそんな突拍子のない、神をも畏れぬ大嘘をつくわけ?

 信じられない。

「いいえ、違うん……」
「マキ、さぁ行くぞ。美味いものを食いに行こう。腹が減っているんだろう?」

 力いっぱい否定しかけたとき、ウオーレンがわたしの腕をむんずとつかんでおもいっきりひっぱった。

「それはおめでたいことです。息子は何も教えてくれませんでしたので、知らずに申し訳ありません」
「閣下、よかったですね」

 店主の奥さんも店主もニコニコ顔で見送ってくれた。

 二人をだましたまま、店をあとにしなければならなかった。