「ストーム」

 そうだった。今日は、彼に乗せてもらう約束をしているのだった。

 手すりから身を乗りだした。

 いた。ストームがいる。ちゃんと鞍や銜を装着して。

 彼はわたしの声に反応し、こちらを見上げている。

「おはよう、マキ」
「なんだ。ウオーレン様もいたんですか」
「いたんですか? って、いるにきまっているだろう?」
「そうなんですか? まぁ、いいです。念のために確認しますが、いまは朝ですよね?」
「あ、ああ、ああ、朝だ。まぎれもなく朝だ。マキ、ストームに乗るのだろう?」
「もちろんです。ですが、ウオーレン様はいりませんよ。お忙しいでしょうから、用事をすませて下さい」
「いりませんよって……。きみは、乗馬の経験がないのだろう? せめて数回は側について乗り方や走らせ方を学ばなければ」

 まったくもう。ストームが乗せてくれるって言っているのだから、彼に任せておけばいいのではないの?

 ウオーレンったら、なんだかんだと言いつつ、わたしを見張っているのかしらね?

 食器を落としたり、酒をぶっかけたりしないように。

 だけどまあ、乗り方がまったくわからないのはたしかなこと。わたしの無知が、事故につながってしまうかもしれない。
 わたしが落ちてケガをするのならいいけれど、ストームになにかあったら大変なことになる。

「わかりました。あなたに習えばいいのですね? そうですよね?」
「あ、ああ。だったら、部屋の前に乗馬服を置いておいた。おれがまだガキの頃のものだが、当時は馬など与えてもらえなかった。一度も着用していない。それでもきみには大きそうだったから、適当に手直ししている。着てみてくれ」
「わあっ! それはありがとうござます。服じたいあまり持っていませんので、一着でも余分があれば助かります。ストーム、着替えてすぐに行くわね」
「ブルルルルル」
「あっ、ウオーレン様っ!」

 部屋に入りかけたけれど、ウオーレンに言い忘れたことがあったのでまた手すりから身を乗りだした。