ゆっくりお風呂に入った。

 これまでは、皇宮内にある使用人向けの寮に入っていた。そこでは、部屋はもちろんのことすべてが他の侍女や使用人たちとシェアしていた。お風呂など、タイミングを逃せば冷めきったお湯でしか入ることが出来ない。しかも、順番待ちがすごい。湯船にゆっくり浸かるなどという贅沢なことは、けっして許されない。

 なにも「お風呂命」、というわけではない。なければないでガマン出来る。だけど、ごくたまにお風呂でまったりしたい、なんてことを考えてしまうときがある。

 というわけで、ここでは贅沢が出来る。

 ウオーレンは、湯船にハーブを入れてくれていた。

 庭に咲いているローズマリーである。咲いているのを取ってきて入れてくれた。

 それでゆっくり浸かった。

 気がついたら、溺れかけていた。お湯はすっかり冷めている。湯船から慌てて出て、体を拭いて夜着を着た。

 大判のタオルはふわっふわで、夜着はウオーレンからシャツとズボンを借りた。

 シャツもズボンもわたしには大きすぎる。裾や袖を何重にも折らねばならなかった。ウエストは、紐で絞った。

 眠る準備を万全にしてから、客間の壁に並んでいる本棚の本を物色した。

 古びた宮殿にある本だから、古典文学的なものが多いのかと思っていた。だけど、意外とそうではなかった。図書館に並んでいるような小説も少なくない。

 その中から、恋愛物の短編集を選んだ。