「こんなに細い脚なのに、ウオーレン様みたいなデカブツを乗せて駆けるって……。どれだけ虐待なのって感じよね。ねぇ、ストーム?」
「ブルルン」
「ぎゃ、虐待? 彼は軍馬だ。軍人を乗せてこそなのだ」
「そういう考え方は好きではありません。軍人、軍人って、軍人はそんなに偉いのですか? 軍人だったら、なんでも許されるのですか? なにをやってもいいのですか?」

 軍人だから他国に侵略し、多くの人の命や財産を奪い、矜持を踏みにじる。こんなことを平気でしてもいいというの?

 ちょっとだけムッとしてしまった。だから、冷静に尋ねてみた。

「い、いや。そういうわけでは、けっしてそういうわけではない」

 彼は、慌てて否定した。一応、そういっておけばこの場はうまくおさまるだろう。そういう感じで。

「軍人は、いや、おれのような人殺しは、偉くもなんともない。偉いどころか、唾棄すべき存在だ。多くの人々を殺し、奪い、踏みにじってここまでのぼりつめたのだ。きみの言わんとしていることはよくわかる」
「だったら、どうして将軍でい続けるのですか? さっさと退役すべきでしょう? 嫌われていようとのけものにされていようと、一応皇子なのです。皇子手当みたいなものがあるでしょう? スカンラン帝国の人々に養ってもらえますよね? だったら、細々とでも生活は出来るはずです。軍を退役したところで、なんの不自由もないはずです。 それなのに退役しないということは、人を殺したり奪ったりすることがそれほどイヤではないということです」
「い、いや、それはちがう……」
「違いません。とにかく、わたしは軍人が大っ嫌いなのです」
「だ、大っ嫌い?」
「ブルルン」

 やわらかく意思表示をしたタイミングで、ストームがまた鼻を押し付けてきた。