「ブルルルル」

 そのとき、奥の馬房から馬の鼻嵐の音がきこえてきた。

 奥に行ってみることにした。

 馬房が並んでいるわりには、どの馬房も空である。

 幾つ目かの馬房の前を通りすぎ、やっとお目当ての馬房の前にやってきた。

 馬房の入り口は、背の低いわたしの胸元辺りまでの高さの扉があって、いまそれは閉じられている。

「うわあ、きれいな馬」

 淡い灯火の中、黒馬がこちらを見ている。

 その毛並みは、艶々と光り輝いている。堂々としてなおかつ美しいその姿に、一瞬にして魅了されてしまった。

 馬は、美しい。この世の生き物の中で、一番美しいのではないかとつねづね思っている。駆けるその姿は、一生見ていても飽きないでしょう。

「マキ?」

 もっさりとした影が現れた。

 せっかくの黒馬の姿が、それによって隠されてしまった。