だまって彼の手から真っ白いハンカチを受け取り、涙を拭った。
 鼻水もヤバい状態になっている。ハンカチを広げ、おもいっきり「チーン」をした。

 それから、ハンカチ(それ)をちゃんと畳んで彼に返そうとした。

「い、いや、いい。それは、きみが使うといい」
「そうですか? 涙と鼻水を拭いただけですから、汚くありませんが」
「とにかく、いいよ」
「では、遠慮なく」

 スカートのポケットに入れた。

「それで、わたしは殿下のお世話をすればいいのですね。それから、この宮殿の掃除ですね」
「いや、何もしなくていい。おれは、自分のことは自分で出来る。ここの掃除は、必要最低限やっている。きみは、調理は出来るかい?」
「もちろんですとも。調理に関しては、うるさいのです」
「それはよかった。しばらくはないが、いずれ軍の調練や遠征でここを空けることになるかもしれない。そのときには、きみは自分で調理をしてほしい。それ以外は、自由にすごしてくれていい」
「はい? 殿下のいらっしゃらないときのことは承知しましたが、ふだん自由にすごすってどういうことでしょうか」
「とりあえず自分の身のまわりのことだけやってくれれば、好きなことをすればいい。調理はおれや従卒がやるし、掃除も同様だ。もちろん、洗濯もおれは自分の分は自分でやるから、きみの物はきみ自身でやってくれ。明日、洗濯場と厨房を案内する。小腹がすけば、厨房を勝手に使ってくれていい。本を読みたければ、部屋にある本を読んでくれていいし、好みのジャンルがなければ図書室や執務室にもたくさんある。散歩したければこの辺りをまわればいい。近くに池があるから、ボートに乗ることも出来る。馬が必要なら準備する」
「ちょちょちょっ、わたし、侍女ですよね?」

 あまりの待遇に確認しないわけにはいかなかった。

 が、彼は黙りこくった。