「やはり、きみは楽しいな。呼び寄せて正解だった」

 そうだったわ。彼がわたしを指名したんだった。

「侍女として優秀な彼女に是非来てもらってくれ」

 そんなふうにお願いしたに違いない。

「おれの名は知っているな? 何者かも」
「ええ。このスカンラン帝国で『銀仮面の獣将』と異名を持つ大将軍ウオーレン・シャムロック皇子殿下、です」
「ああ、そうだ。だが、『銀仮面の獣将』とは異名というよりかは蔑称に近いな。小説や童話によく出てくるように、おれは皇帝が遠乗りの際に見かけた村娘に欲情し、犯して産ませた究極のお手つきの子にすぎない。まだガキの頃、ある日突然皇帝や皇子たちの政敵たちが村にやって来た。そして、帝都に無理矢理連れてこられた。それ以降、忌み嫌われた野良犬皇子として、この古宮ですごさねばならなかった。それでも哀れに思った監視人の一人が、剣や槍や戦略や戦術をみっちり仕込んでくれた。その監視人が手を回してくれ、軍の幼年学校に逃げ込めた。それからは、軍しか居場所がなかった。いまだに、皇宮(ここ)のどこにもおれの居場所はない」

 彼は、こちらが尋ねもしないのにベラベラと語り始めた。

 ふんっ! そんなありきたりな話、それこそ小説や童話で読み飽きているわ。

 それに、あちこちの国々で多くの人の命を奪い、さらに多くの人に哀しみや絶望を与えておきながら、わが身を哀れに思うなんて虫がよすぎるわ。

 わたしだって、わたしだってそうよ。

 ウオーレン・シャムロックにすべてを奪われた一人なのよ。

 だから、そんなありきたりの事情を語られたところで、彼のことを気の毒だとかかわいそうだなんて思うものですか。

 冗談じゃないわ。