四つあったグラス全部が、出席者の一人であるウオーレン・シャムロックに清々しいまでにぶちあたった。彼は、このスカンラン帝国の皇子の一人である。

 彼の真っ白の将校服の上着は、あっという間に琥珀色に染まった。

 おかしいわね。つまづくような物は、大広間の大理石の床上に見当たらないのに。

 それなのに、つまづきそうになるなんて。

 仕方がないからいっしょに頭を下げているけれど、そもそもウオーレン・シャムロックがいなければ、わたしもこんなところで彼に頭を下げずにすんだのに。

 それをいうなら、このスカンラン帝国にいることもなかった。素性を隠し、偽り、必死の努力と運のよさで皇宮の侍女として採用されることもなかった。

 それなのにこんなところでこんなことをしているのは、ひとえにウオーレン・シャムロックを殺す為。わたしが七歳のときに、すべてを奪ったウオーレンに復讐をする為。

 だからこそ、わたしはどんなことでも耐え忍んできた。いまのこれもそうである。

 頭を下げつつ、抜け目なく彼を観察する。