「やはり来たな。食堂の場所を伝え忘れたから、ここに煮込み料理を置いてみた。肉食獣を狩るときの罠と同じだ。きみなら、このにおいにつられてやってくるだろうと考えてね。それが見事に的中したわけだ。これも、きみの肉食獣並みの鼻のお蔭だな」

 彼はハスキーボイスで褒めてくれたけれど、いまはそんな褒め言葉などどうでもいいわ。

「ここが食堂だ。準備は出来ている。まずは食おう。ちょっ、まだだ。待てっ!」

 皿に手を伸ばそうとしたら、取り上げられてしまった。

 ケチね。毒見、いえ、味見をしようと思っただけなのに。

「グルルルルルル」

 そのとき、お腹の虫が抗議の叫びを上げた。

 彼の銀仮面の下で、目が驚きに見開かれている。彼の瞳が夏の空と同じきれいな青色であることが、あざやかな月光の中ではっきりとわかった。

「豪快な腹の虫だな。口から這いずり出てこない内に食い物をやろう」

 彼はつぶやくように言い、さっさと中に入って行った。その彼を追い、開放されている扉から中に入った。