「その、マキ。ほんとうに信じてくれたのか……」
「そんなことはもういいのです。いまは信じたとしか言いようがありませんので。あとになったら、『よくよく考えたら、やっぱり信じられません』ということになるかもしれませんけれど。それよりも、メイナード様が言っていた約束ってなんですか?」
「ああ、約束か。例の火事の前、きみに約束させられたんだ。きみは、控えめにいってもこまっしゃくれたガキだった。きみの兄上と姉上がすごく出来た子どもだったから、きみのひどさが際立っていたってわけだ」
「はい?」
「きみは、義父(ちち)とおれを見るなり叫んだ。『なにこれ? 顔はいいけど木偶の棒って感じよね?』、とな」
「はいいいい?」
義父(ちち)がきみの父上と話をしている間、きみはおれを馬がわりに背中に乗ってきたり、どれだけ耐えられるか暴力をふるってきたりくすぐってきたりした」
「はああああ?」
「そして、きみはあろうことか奪ったんだ。おれの、おれの初めての口づけを」
「はああああああいいいいいい?」
「それから、きみはおれに言った。『ちっともよくなかったわ。だけど、わたしと口づけをかわしたからには、わたしの婿にならなければならないのよ。やさしくて従順でなんでも願いをかなえてくれる婿にね。さあ、約束しなさい。わたしの婿になるって』とな。あれは、この世の災厄だった。正直、火事よりも衝撃的だった」
「う、嘘よ。わたしが覚えていないからって嘘をつかないでちょうだい」