「それで? わたしに『銀仮面の獣将』を殺させようとでも? 理由は? あなたは、わたしの理由はおわかりですよね? でしたら、わたしもあなたの理由を知る権利がありますよね」
「反乱、だ。軍の一部や帝都民を扇動し、反乱を企てている」
「なるほど。それで? わたしが見事彼を殺したとして、わたしになにかいいことがあるのですか?」
「この国で生活出来るようにしてやる。そうだな。無能なくせに侍女をせずにすむよう、辺境の地に家を買ってやる。しばらくの間食えるだけの金もやる。どうだ? 悪い話ではないだろう」
「そうですね。なにをするにもたった一人だったことを思えば、あなたのお申し出は破格と言えます。ただ、わたしも保証が必要です。今回のことを書面にして下さい。もちろん、他に見せるつもりはありません。その書面には、この計画の黒幕の名も記しておいて下さいね」
「なんだと? 注文の多い奴だな」
「当然です。わたしも、これまでいろいろありました。穢れ仕事をするのはわたしです。見事大願成就したとしても、簡単に裏切られたり見捨てられたりということはあるあるです。手間とリスクと信用を天秤にかけても、書面の作成くらいどうってことないはずです」
「わかったわかった。言う通りにする。では、その書面と毒薬を渡す。ちんちくりんのおまえでは、あのデカブツを物理的にどうにかするというのはぜったいにムリだからな。これでどうだ?」
「ありがたいですわ。毒薬、飲ませるのは得意なのです」

 にこやかに返すと、宰相はさっそく書面を作成し始めた。

 バカすぎてびっくり。これだけお間抜けバカだと、かえって好感度アップにつながるわね。
 だって、言いなりになってくれるのですもの。

 彼の頭がキラキラ輝いているのを眺めつつ、苦笑を禁じ得なかった。