「ウオーレン、ウオーレン・シャムロック……様?」

 敬称をつけ加えることが出来たのは、不幸中の幸いだった。

 あらためて見上げると、銀仮面がこちらを見おろしている。

 今日は、シャツにズボンと軽装である。うす暗闇の中でもムダに目立つほど真っ白なシャツとズボンを着用している。

 当然、どちらもお酒の色にはいまのところ染まってはいない。

「本日からこちらで勤務することになりました、マキ・セルデンと申します。その、扉を開けていただきたく、控えめに叩いていたところです」
「ほう……」

 銀仮面が威圧的すぎる。

「なるほど。控えめに叩いて、ね。蹴りまくったりぶつかりまくったりしていたようにうかがえるが……」
「殿下の気のせいです」

 イヤだわ。この人、どこかからか見ていたのね。

 それだったら、声をかけてくれたらいいのに。というよりか、ふつうは声をかけるでしょう。

 わたしがここにやって来たということがわかっているのに。

 この人、寂しいだけでなくずいぶんと意地が悪いのね。

「そうか。気のせいだったのか」

 彼は、ひとつうなずいた。

 えっ? そこ、納得するわけ? いまのでよかったわけ?

「荷物は、それだけか?」

 面食らった瞬間、頭上で彼が床上のトランクを顎で示した。

「あ、は、はい」

 返事をするまでに、彼はさっさとトランクを手に持った。