水の音はまだしている。
もしかして異変に気づいて戻って来たの?
「ち、近寄らないで!」
「あんまり調子に乗らないほうがいいよ。何度、忠告したらわかるのかな?」
一歩、また一歩と歩みを進める香坂に対して、私は後ずさりをする。
「逃げても無駄だよ」
出口は多分、右側にある扉。
逃げ切れるかわからないけれど、もう行くしかない。
私が扉めがけて走り出した瞬間、香坂が「待て!」と怒鳴った。
こんなところで鳴らしたって誰も気づいてくれないかもしれない。
それでも、私は藁にもすがる思いで狼のしっぽを引き抜いた。
すると、なんとも言えない不快な音が鼓膜を揺らす。
香坂がその音に気を取られている隙に私は扉を開いた。
けれど、その先にあったのは階段だった。
「ここは7階。そう簡単には逃げられないよ」
この扉が出口ではないことを、香坂は最初から知っていたのだ。
「だから、言ったでしょ?逃げても無駄だって」
背後から乱暴に髪を引っ張られて抵抗すると、今度は足を引っ掛けられる。
バランスを崩した私は地面に尻もちをついた。



