【完全版】雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。


ここからは時間との勝負だ。

香坂の姿が見えなくなった後、私は体を揺らしながら数十センチ後ろにある棚へと移動した。

摩擦を起こして紐を切る。

そのために重要なのはスピードだ。

棚の脚にビニール紐を当てて、何度も、何度も、腕を上下に揺らす。

水の音はまだ止まっていないから、大丈夫。

落ち着け、焦るな。

紐を擦り続けて数十秒から1分が経った頃には、地面に汗の水玉模様ができていた。

それでも動きを止めずにいると、少しずつ紐が切れていく感覚がした。

最初に比べたら紐の強度もかなり落ちている。

これなら切れるかもしれない。

そう思って両手に力を入れると、ブチッと音を立てて紐が千切れた。

い、いけた…!

今度は自由になった両手で足の紐を解く。


そして、近くに捨てられていた鞄を回収して立ち上がったその時──。


「脅し方が足りなかったかなあ?」

背後から聞こえてきたのはドスの効いた声。


振り向くと、5メートル程先からゆっくりと歩いてくる香坂の姿が目に入った。