「ううん、何でもない。ごめんね急に立ち止まっちゃって」
「いえ、何もないなら良かったです!じゃあ、行きましょうか?」
「うん」
大通りへと続く一本道を再び冬馬くんと並んで歩き出したその時、背後から「あの、すみません」と呼び止められた。
振り返るとスーツに身を包んだ男性が右手にビジネスバッグ、もう片方の手に折りたたんだ紙のようなものを持って立っていた。
さっきまで隣にいた冬馬くんはいつの間にか、私の一歩前へと出ている。
その表情は見えないけれど、背中から緊張感のようなものが伝わってきた。
もしかして、狂猫の関係者?
年齢は20代半ば位だよね。
危険な人には見えないけれど、油断は禁物だ。
私は冬馬くんの後ろで防犯ブザーを鳴らす準備をした。
「何か用ですか?」
そう問いかけた冬馬くんは相当、怖い顔をしていたのだろう。
男性はうろたえた様子で「すみません」と口にした後、持っていた紙を私たちへと見せてきた。
そこには『☓☓会社、研修会のお知らせ』と書いてある。
「きゅ、急に声をおかけしてすみません。く、黒田ビルに行きたいのですが道をご存知でしょうか?」
男性の言葉に私と冬馬くんは顔を見合わせる。



