「(いや、お母さんはただ失踪しただけだった…)」



あぁダメだ…。パニックで頭が働かない…。実の母を勝手に昇天させるなんて、相当どうかしてる。


ってか、チャラ男がいつの間にかいない。逃げたな、あの人…!


反対に、私のファーストキスを奪ったイケメンは、未だに私を抱きしめてるし…。



「もう…好きにしてください…」



何も言い残すことはない…。っていうか、お腹が減って何も考えられない…。


だんだん体の力が抜けていくのが分かった。



「は?え、マジで?おい!お前!」



薄れゆく意識の中、ふと聞こえてきたのは――音楽。男の子たちが元気な声で歌っている。



「(もう。勘弁してよね本当…)」



私はアイドルが嫌いなんだから――



その言葉を口にしたか、していないか。それはハッキリと覚えていない。



だけど意識を手放す中。



「好きにしてください、なんて…。冗談でも言うんじゃねぇよ」



私の唇を奪ったイケメンが弱々しく喋り、切なそうに私を見つめたのがわかった。


そして最後に、とびきり優しく私を抱きしめたのも知ってしまう。



「(あったかい…)」



私が次に目を覚ました時。

その時の温もりだけを、仄かに覚えているのだった。